弁護士 江森民夫

 茨木のり子が、1999年に刊行した詩集「倚りかからず」は、詩集としては異例の15万部の販売を記録しました。

 表題作「倚りかからず」には、

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい

と書かれています。
 この言葉は当時の社会的、政治的な状況の中で、人間が「自立」した生き方をどう模索するかを書いたもので、現在の状況の中で、ますます大事な言葉であると、思われます。

 同じ収録作品の「時代おくれ」には、次のことが書かれています。

車がない
ワープロがない
ビデオデッキがない
ファックスがない
パソコン インターネット 見たこともない
けれど格別支障もない

そんなに情報集めてどうするの
そんなに急いで何をするの
頭はからっぽのまま

 茨木はここで、受動的に入ってくる情報ではなく、自ら集約した情報にもとづいて、「自立」して物を考えることの重要性を述べているのではないかと思われます。

 同じ詩の中には、

(電話の)盗聴も自由とか
便利なものはたいてい不快な副作用をともなう
川のまんなかに小舟を浮かべ
江戸時代のように密談しなければならない日がくるのかも

と書かれていますが、共謀罪の危険性まで指摘されていると、私には思われます。