昨年11月に日本労働弁護団の総会のあった、北九州八幡のホテルのほど近くにある「官営八幡製鐵所」の見物をしてきました。2015年7月にレンガ造りの「旧本事務所」を含め4箇所が「世界文化遺産」に登録され、見学コースが作られていました。八幡製鐵所は、1901(明治34)年に官営製鉄所として出発し、第二次世界大戦前には日本の鉄鋼生産量の過半を製造しており、すぐれた生産施設として世界遺産とされたようです。
 ところでこの八幡製鐵所は、労働運動のさきがけの地でもあります。1919年に八幡製鐵所の労働者は日本労友会を結成し、1920年に賃金増額、労働時間短縮を要求し、2万人以上の労働者が2回のストライキに突入しました。これに対し指導者が解雇され、治安警察法違反、騒擾罪での弾圧が行なわれ、運動は崩壊させられます。しかし使用者はその後「職工優遇案」を発表し、8時間交代制などを導入しました。この争議について佐木隆三が「大罷業」という小説を書いています。そこには「溶鉱炉の火は消えたり」という有名な言葉が紹介されています。
 格差社会が進行し、労働者の権利が踏みにじられている今日、八幡製鐵所を、血と汗と涙で権利を獲得した労働者の「遺産」としたら良いかななどと思いながら、「遺産」見物から帰りました。