昨年は、地球温暖化等の影響もあって、台風や大雨が続いたせいか、庭の植物の成長が早く、さるすべりやつる草がやたらに繁茂し、隣家に越境して都度手入れするのに苦労した。しかし、時の流れは早いものであっという間に新年を迎えた。幼い頃は、からだが弱く、しかもシベリヤ抑留をも経験した私が、昨年8月には卒寿を迎え、事務所やかつての仲間の皆さんから温かく祝福して頂いた。ここに心から感謝申し上げるとともに、なおこの世に存在する人生の不思議さを実感している。同時に私の残っている仕事は僅かだが事務所の一員として形ばかりでも機能できていることを、心から生き甲斐に思っている昨今である。しかし老境の生きざまは誰しも容易ではない。すでに故人だが評論家でベトナム反戦運動などで活動された鶴見俊輔氏は、晩年筑摩書房から『老いの生き方』というアンソロジーでモームやサルトルなどを含め金子光晴、室生犀星、森於菟氏など十八氏の作品を引用して、それらの人々の発想や苦悩をまとめ、老いの生きざまをわれわれに教えてくれている。同氏は「未知の領域にむかって」という序文で「私がまだしていない死ぬということを何十万年にもわたってなしとげた人として、祖先のすべてに脱帽する。その状態に達するまでにのこっているしばらくの時間の中で、老いてゆく準備を続けたい。」といっているが、到達した心境をこっそり聞きたいものである。