昨年の夏から連日マスコミに取り上げられているトピックとして、築地市場移転問題が脳裏に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。移転にあたって何が問題になっているのかについて述べさせていただくと、次のようになります。
 市場の移転を行うには、最終的には農林水産大臣の認可が必要となります( 卸売市場法8条、11条1項)。その認可の判断材料として、農水省が策定した「卸売市場整備基本方針」の中でも、「生鮮食料品等の安全・衛生上適切な環境にある地域であること」と明記されているように、移転先の土壌が食品を扱うにあたり衛生上の問題がない事も当然考慮要素とされるのです。
 豊洲の市場移転予定地は、元々昭和31年から32年の間都市ガスの製造が行われた場所であり、環境基準を大きく超えるベンゼン等の汚染物質が存在したことから、同地は土壌汚染対策法上汚染が存在する地域と指定されていました。上述の考慮要素からも当然このような汚染指定が解除される事が移転の認可の判断材料となるわけですが、この指定が解除されるためには「地下水汚染が生じていない状態が2年間継続すること」(土壌汚染対策法11条2項、同法施行規則40条別表6)が必要なところ、これが満たされていないことが昨年9月末に発表された都のモニタリング調査の結果から明らかになったのです。
 何故か報道では建物地下に盛り土がなされていない、この責任を誰がどう取るのか、という点に終始しているかのような印象を受けますが、そもそも築地市場の移転先として整備されている豊洲移転予定地が新市場として食の安全安心を確保するに足りる状況にないという現状を踏まえ、それを確保するためにどのような手立てが考えられるのか、という点を考えなければ、日本の食品物流の拠点である築地市場の機能を今後も維持する事は困難です。
 小池都政になり豊洲移転予定地の汚染問題がクローズアップされた事は良い事ではありますが、責任の所在という過去の清算の話に終わらせる事なく、今後食の安全安心を守るためにどのような手立てが取れるのか、じっくり議論がなされるべきでしょう。