今から二千数百年前、老子は「武器というものは不吉な道具で、誰もが常に嫌がるものである。だから道を修めた者はそういう物に近づかない……武器という不吉な物は君子が用いるものではない」と述べている。この老子の反戦、平和思想は、近現代の人道主義者にも大きな影響を与え、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線終結の日、シュバイツァーは、アフリカの地で、一人静かにこの老子を読んだという。
 本年5月、原爆投下から71年目にして初めてアメリカの現職大統領であるオバマ氏が広島を訪れ、被爆者と対面し、抱擁を交わした。今なお力(武力)による政治が行われている国際政治の現実を踏まえると、オバマ大統領が、核廃絶に向けて歩みだすことを改めて誓ったことは、歴史的にみても大きな意味があると思われる。
 今、世界には武力によって住む地域が破壊され、難民となった人の数は億を超えるという。このことからすれば、戦禍によって故郷を離れざるを得ないような悲しい出来事が起こらないように、核廃絶のみならず、通常兵器も使わないで平和が維持できるよう―それは憲法9条の精神でもある―にしたいものである。