先の通常国会最終盤に刑事訴訟法が改正されました。取り調べ全過程の録音・録画の義務づけ(可視化)が伝えられていますが、捜査・訴追機関の便宜を図る制度も抱き合わせで成立しています。
 今回の改正の元々の目的は、冤罪の根絶でした。この観点は、取り調べの可視化を始め、証拠の一覧表開示、裁量保釈の考慮事由の明文化など、被疑者・被告人の防御を充実させ冤罪を防ぐ意味をもつ内容が含まれますが、いずれも限定的で十分とは言えません。
 他方、新しい時代に即応した捜査・訴追機関の便宜の方向では、これまで組織犯罪に限定されていた通信傍受(盗聴)の対象範囲を傷害や窃盗・詐欺などに拡大し、通信事業者の立ち会いなく捜査機関が独自に行えるようにしたり、捜査・公判協力型の協議・合意と刑事免責の制度(司法取引)の導入があります。
 特に、後者の司法取引は、捜査対象となっている被疑者・被告人が、自分の知っている「他人の犯罪事実」の供述や証拠を検察官に提出する代わりに、自分の犯罪で不起訴処分や軽い罪での起訴の便宜を得る「取引」をする制度です。
 この取引には弁護人の同意が必要とされますが、依頼者の利益を守る立場の弁護人に「他人の犯罪」の真偽の判別が出来るのか、引きずり込みの危険を考えると、難しい判断を迫られそうです。
 厚労省女性高官の事件での検察官による証拠改ざんや、選挙違反事件での集団冤罪事件などの反省に立ち、冤罪撲滅を目指して始まった新時代の刑事司法改革が、捜査・訴
追機関の便宜のいわば「焼け太り」的拡大で、新たに冤罪を生み出す大転換とならないよう、その運用を注意深く見守る必要があります。