安保法制の騒ぎの陰に霞んだせいか大きく注目はされませんでしたが、前回たよりで江森弁護士から報告した労働者派遣法の改正が、昨年通常国会であっけなく成立してしまいました。全就労人口に占める非正規労働者の割合が4割に達した現状に鑑みるとまことに危惧すべき事態と言えます。
 政府が検討している労働環境に関する立法の動きは派遣労働に限りません。正規労働者について一定の年収以上の労働者を労働基準法の時間規制から外す「残業代ゼロ制度」は昨年4月に立法化に向けた閣議決定がされており、法案審議には入りませんでしたが、財界からの支援を受けた政府が立法化を断念したわけではありません。現状の労働時間規制の下でもサービス残業が横行し、「過労死」という言葉が国際語になるほど長時間労働が蔓延している日本の職場環境に、「定額働かせ放題法案」とも揶揄される制度が導入されることは正規・非正規を問わず全労働者の労働条件に甚大な影響を与えるものです。
 いまだ法案としては固まっていませんが、解雇の金銭解決制度の導入は正規社員の身分の安定に重要な影響を与えるものです。昨年10月に厚労省の検討会で議論が始められ、政府、財界は過去何度か立ち消えになったこの制度の導入を推し進める覚悟のようです。現在、労働契約法等で労働者を解雇する場合には一定の制限が設けられていますが、金銭解決による解雇が可能であることを法制化することは、安易な解雇の濫発を招くとの指摘がなされています。不当解雇事件を数多く担当した経験から、その危惧は決して杞憂ではないと断言できます。
 労働環境の規制は多くの労働者にとって生活の質と内容にかかわる重要な問題です。今後とも、立法の動向に十分注視し警戒する必要があるでしょう。