このところ耳慣れない「集団的自衛権の行使容認」問題が、安倍政権最大の政治課題としてマスコミを賑わしていますが、この難しい政治問題に私たちがアプローチする際の便宜として、問題点を整理しておくことが有用かと思います。
 第1に、「集団的自衛権」という国際法上の権利が、主権国家であるわが国にも認められていることは、誰も否定しておりません(ただし、「集団的自衛権」という考え方が国際社会に登場したのは、第二次大戦後の1945年、国連憲章51条に謳われたのが初めてであり、その内容や経緯には問題点が少なくないのですが・・・)。
 第2に、しかし、わが国が「集団的自衛権」を諸外国なみに認められているというだけではなく、実際にこの「権利を行使する」つまりそのために「武力を行使する」となると、これは諸外国と同じというわけにはいかず、わが国には「戦争放棄、戦力不保持」を宣明する憲法9条が定められていますから、たとえ「集団的自衛権」の名の下でも、武力を行使して戦闘(戦争)に参加することはできない道理です。
 実はこの点が今般の「集団的自衛権」問題の最大の問題点でありまして、安倍首相らは、憲法制定当時から70年も経って国際情勢が変化し、中国や北朝鮮との軍事的緊張も高まっているので、わが国が「武力の行使」に踏み切るのも已むを得まいと主張しているのですが、当面(ここ10年位)の軍事的情勢の変化を理由に、憲法9条の大原則を軽々に変改することが許されるのか、重大な疑問があるといわねばなりません。
 第3に、それに加えて、安倍首相らが、このように憲法9条の「戦力不保持の原則」との係わりで重大な疑問のある「集団的自衛権の行使容認」論を押し進めるのに、「憲法改正」の正規の手続を踏むのではなく、また、国会審議や国民の意見を聴くこともせず、政府かぎりの決定(閣議決定)で、憲法の内容を実質的に変えてしまう(「憲法解釈の変更」)というやり方で済まそうとしている点でも、憲法手続上重大な疑問があるとされています。
 第4に、このようにして、今般の安倍政権による「集団的自衛権行使容認」方針には、その内容と手続の両面で重大な疑義があると指摘されており、マスコミ・世論はもとより、与党の中からさえも厳しい批判が出されていることは周知の事実です。
 しかし、それだけではなく、安倍首相らの「集団的自衛権行使容認」論にはより根本的な誤りがあります。それは、この主張が日本の平和と安全を確保する方策として、ただただ軍事的手段―それも米軍の軍事行動を支援するための―を拡充強化することのみに意を用い、もっと大切な平和的方法―外交・通商・文化交流等による―を模索し、提案し、実践することを怠っているからです。わが国の安全保障政策の軍事優先路線をやめさせ、平和的路線に転換させること、これがいま何よりも多くの国民から求められていることではないでしょうか。