昨年9月4日、最高裁判所は、結婚していない男女間に生まれた子(婚外子)の権利について画期的な決定を下しました。民法が婚外子(非嫡出子)の相続分を法律上の夫婦の子(嫡出子)の2分の1と定めた規定は、憲法14条の平等原則に違反するという大法廷の全裁判官一致の違憲判断です。
 嫡出子と非嫡出子の相続分を差別した民法900条4号の規定は、明治民法時代からのもので、戦後の家族法改正の際にも手をつけられなかったものですが、これまでも、同じ子であるのに父母が婚姻をしていないという理由によって相続にあたって差別をしてよいかが大きな議論の対象になっていました。裁判例でも、平成6年の東京高裁の決定がこの規定を憲法違反であると判断していましたが、最高裁判所は平成7年の決定で今回とは逆の結論(合憲判断)を出していました。
 今回最高裁が判断を改めた理由は、決定の理由中にもあらわれています。最高裁の違憲判断は立法裁量論に立ち、婚外子差別規定の放置が国会の立法に関する裁量を超えており、許容できないとするものですが、立法裁量が憲法に反しているかどうかの判断は、「時代と共に変遷する」としたのがそれです。決定が指摘した事情の変化とは、①婚姻、家族の形態が多様化し、婚姻、家族のあり方に対する国民の意識も多様化したこと、②本規定の立法に影響を与えた国々でも平等化が進み、相続差別が撤廃されていること、③子の出生による差別を禁じた国際人権法の観点から日本政府が改善勧告を受けていたこと、④近時における嫡出子と非嫡出子の扱いに関する法制等の変化、といった事情です。
 平成7年の合憲判断以降、このような事情の変化があったことが今回の決定を合理化するから、今回の決定は平成7年の判断と矛盾はしないとしたのです。
 この問題に関しては、婚姻制度や法律上の家族制度を重視する立場からは、婚姻を経ずに生まれた子の権利とそうでない子の権利を平等にすると、婚姻制度や家族制度の価値を阻害するので、差別を設けるのはしかたがないという議論があります。保守的な政治家の中には最高裁判所裁判官の全員一致の判断にもかかわらず、このような観点から今回の決定を問題視する意見も強くありました。そして、これは政治家だけでなく、一般国民の間にも似たような感想を持つ人が少なくないと思われます。
 しかし、最高裁の判断のポイントは、父母が婚姻関係になかったからという子にとって選択の余地のない事情を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されないという観点にあります。決定の中に明言されたように「家族という共同体中における個人の尊重がより明確に認識されてきた」時代の変化は、嫡出であるかないかによる差別を「子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考え」からは許容できないとしたものです。
 遅きに失したという意見もありますが、最高裁判所が司法の機能を果たした例として歓迎すべき判断といえましょう。