本年1月の事務所だよりでお知らせした薬害イレッサ訴訟についての続報です。

 「イレッサ」とは、2007年に審査期間わずか半年で世界に先駆けて日本で承認され、発売された肺がん治療薬ですが、「副作用の少ない夢の新薬」との宣伝に反して、発売直後から副作用の間質性肺炎による死亡被害が多発しました。薬害イレッサ訴訟は、イレッサの輸入販売を行ったアストラゼネカ社とこれを承認した国(厚生労働大臣)を被告にして東京、大阪で提起された訴訟ですが、本年2月には大阪地裁で、3月には東京地裁で、それぞれ判決が言い渡されました。

 両地裁とも、イレッサ承認時の添付文書における間質性肺炎の副作用の危険性に関する記載が不十分であったとして、アストラゼネカ社の製造物責任を認めました。

 他方、国の責任については、両地裁とも添付文書に対する国の行政指導が不十分であったことを指摘しましたが、大阪地裁判決は、それでも国の国家賠償責任までは認めませんでした。これに対して、東京地裁判決は、営利企業である製薬会社が、「安全性確保のために営業上不利益となる情報を進んで記載することは十全には期待し難い」から、国は指導を行う責務があるのにそれを怠ったとして国家賠償責任を認めました。被害者にとっては当然の判決ですが、これまでの薬害訴訟の歴史の中では画期的判決です。

 ただし、いずれの判決についても控訴がなされ、訴訟は東京、大阪各高等裁判所に舞台を移すことになりました。

 ところで、判決結果は以上のとおりですが、東京、大阪両地裁は、判決言い渡しに先立つ本年1月、被告らの被害者への救済責任を指摘した上で和解勧告を行いました。ところが、これに対して日本医学会など複数の学会が裁判所の和解勧告を批判する見解を発表し、その後、国はこれら学会の見解なども理由として和解勧告を拒否しました。ところが、後日、厚生労働省がこれら学会に和解勧告を批判する見解を発表するよう依頼し、その「下書き」を渡していた問題が発覚しました。正に、国のこうした姿勢が薬害を繰り返させているのです。現在、東京電力福島第一原発の事故を契機に、”原発村”といわれる事業者と官僚と学会のもたれ合い、癒着が問題とされています。またさきごろ九州電力のやらせメール問題も発覚しました。薬害にも全く同じ構造がみられます。

 国民の健康と安全を守るためにも、徹底した真相究明と責任追及が必要です。