2003年10月23日、石原都政下で、東京都教育委員会が卒業式等で「日の丸」「君が代」を強制する通達(10・23通達)を発出して以後、東京都は、都教委による教育現場の管理、統制が強まり、実際上、教育が破壊される異常な事態が続いております。このような事態に抗して、多くの教職員が、この通達及びこれに基づく校長の職務命令は、思想、良心の自由、教育の自由を侵害するとともに、教育基本法で禁止する「不当な支配」に当たるとして訴えた訴訟の判決が、今年になってから、相次いでおります。

 今年1月28日、東京高裁裁判の動き第24民事部は、国歌斉唱の義務が存しないことの確認等を求めた訴訟(予防訴訟)に対し、第一審の原告ら側全面勝訴の判決を覆し、逆転敗訴の判決を言い渡しました。

 この判決は憲法の番人としての裁判所の役割を放棄したものとして厳しく批判されなければなりません。ただ、判決内容を詳細に検討すると、結論としては違憲との判断は示さなかったものの、教育内容に対する国家(教育行政)の介入限界について次のように判示している点は注目しておいてよいと思われます。「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、たとえば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制することは、憲法26条等の規定上許されないと解することができる」「憲法23条は、普通教育の場においても一定の範囲における公権力に対する教授の自由が認められるべきである(教授の具体的内容及び方法につきある程度自由な裁量が認められなければならない)」。この点は、今後、最高裁での闘いの足がかりになるものと考えられます。

 続いて、3月10日、東京高裁第2民事部は、第一審の原告(教職員)ら側全面敗訴の判決を取り消し、10・23通達及びそれに基づく職務命令の違憲・違法性は否定したものの、懲戒処分は裁量権の逸脱であるとして、167名全員の処分を取り消す、逆転勝訴の判決を言い渡しました。判決は、教職員以外の参列者に対する国旗、国歌の強制は、憲法上できないこと、控訴人らの不起立行為が生徒に対し正しい教育を行いたい等の真摯な動機に基づくものであり、少なくとも本人にとってはやむにやまれぬものであったなどとして処分を取り消す判断をしております。この判断は、今後の国旗、国歌強制に抗する闘い方に大きな示唆を与えるものとなっております。

 さらに、本年5月末から7月にかけて、起立、斉唱を命ずる職務命令の憲法違反の有無が争われた事件で、最高裁は、第二、第一、第三の各小法廷の順で、思想・良心の自由(憲法19条)違反の有無について判決を言い渡しました。多数意見は合憲としておりますが、2名の裁判官の反対意見、7名の裁判官の補足意見を付しております。

 今回の最高裁判決は、各小法廷における多数意見がいずれも同じ論理であることからして、憲法19条論について最高裁としての考えを示したものと考えられます。が、憲法19条論だけでも、反対意見があり、また、多様な補足意見が付されていることからしても、なお、変更の余地があるのではないかと考えます。また、本件については、まだ、教育の自由違反、「不当な支配」になるかについての最高裁の判断が示されておらず、この点は、最高裁での重要な争点となるものと考えます。本事件の重要性に鑑み、皆様のご支援のほどよろしくお願い申し上げます。