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闇に葬らせないために

 

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我が国では、誰でも裁判所に訴えを起こして裁判所の判断を仰ぐことができることになっていますが、刑事事件については認められていません。
たとえ犯罪の被害者であっても、犯人に刑罰を与えるように、裁判所に提訴することはできないのです。

これをすることができるのは、検察官だけです。
刑事事件で、裁判所に提訴することを「起訴(きそ)」と言いますが、起訴独占主義といって、起訴権限はすべて検察官に委ねられています(刑事訴訟法247条)。

刑罰を科すということは、別な面から見ると、国家が強制的に個人の生命、自由、財産を奪う(死刑、懲役刑、禁固刑、罰金刑など)、非常に重大な権力行使なので、裁判官が有罪無罪を判断する前に、法律家である検察官がそもそも裁判にかけるべきかどうかを判断する仕組みになっているわけです。

その反対に、起訴便宜(べんぎ)主義というのですが、起訴しない(不起訴)という判断権限も検察官に与えられています(刑事訴訟法248条)。
嫌疑があればすべて法廷に引っ張り出すべきという考え方もありえますが、有罪にできる証拠が揃っているとしても、被害が軽微で、賠償も済んでいる、被害者も許している、本人も反省している、周りの人間関係から更生が期待できる、というような場合に、わざわざ裁判にかけて前科者にするよりも、一度やり直しの機会を与えるというやり方もある。そういう社会のデザインになっているわけです。

この起訴独占主義にしても、起訴便宜主義にしても、検察官に大きな権限を与えることには違いありません。
国家権力の源泉は国民にありますから、その権限行使は国民の目から見て公正でなければいけません。
もしも、検察官の個人的な事情で起訴・不起訴が決まったり、権力者に対する忖度から「事件を大きくしない」ために屁理屈的な不起訴処分が横行するようになったら、検察官としての職務権限濫用であり、国民に対する背信でもあります。

検察審査会という有権者から無作為に選ばれた人で構成される機関が、検察官の不起訴処分に対する審査を行うことは、最近よく知られるようになりました。この手続を経て、強制起訴に進むこともあります。

さらに、警察官などによる職務権限を濫用した犯罪などでは、不起訴処分に対して、裁判所に付審判請求をして、裁判にかけるという方法があります。
公務員の職権濫用のような犯罪類型では、検察官による不公正な不起訴の判断がなされる危険が相対的に高いことから、このような手続が用意されているのです。公務員同士身内のかばい合いをあばく手段のひとつです。

民主国家の最低限の基盤とも言える公文書が、財務省内で大規模に改ざんされていたことについて、大阪地検特捜部が、関係者全員を不起訴としたニュースは耳に新しいところです。政府与党の政治家の足を引っ張りかねない公文書を廃棄、隠蔽、改ざんをしていたのですから、これを見逃すことは法治国家を否定するようなもので、これこそ公開法廷で真実を明らかにする必要がありました。

まさか、中央官庁内でそんな大胆な犯罪行為が行われていたとは、およそ公文書の信用性が損ねられたと言っても過言ではないでしょう。公文書の信用性をこれ以上損ねないためには、適切な処罰も必要でした。

公務員と政治家のなれ合い、かばい合いがこうした犯罪を生み、不可解な不起訴処分を招いたのだとすれば、立法論として、付審判請求の対象の拡大なども必要なのではないでしょうか。そのくらい検察官の公正性に疑問が向けられているのだと思います。

ついでに言うと、日本型司法取引がスタートしたのは6月1日のこと。大阪地検特捜部が財務省の文書改ざん事件で不起訴処分としたのは前日の5月31日。
本当なら司法取引にはおあつらえ向きの事件だったと思ったのは私だけでしょうか。

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